AIエージェントがWebを操作する時代、サイト設計の単位は「ページ」から「意図」へ変わる

藤村 隼人
著者

藤村 隼人

CREATREE合同会社 代表社員/NSJAPAN CDO

HAL名古屋卒業後、マーケティング会社を経てCREATREE合同会社を設立。代表社員として、生成AI導入、AI業務自動化、UI/UX設計を横断し、構想から実装・運用改善まで支援。NSJAPANではCDOを務める。

AIエージェントは、Webページを読むだけでなく、比較、入力、予約、購入といった一連の操作を代行し始めた。マーケターやWeb担当者にとって、この変化は新しい流入経路への対応にとどまらない。サイトを利用する主体が人間だけではなくなり、従来の画面や導線を前提とした設計そのものが問い直されている。

一般には、SEOの次に「AIから引用されるための設計」が注目されている。しかし、AIエージェントが情報収集だけでなく操作まで担う場合、画面の分かりやすさに加えて、意図の解釈、権限、確認、実行結果までを設計しなければ、利用目的は安全に完了しない。

本稿では、AIエージェントが利用者に代わってWebを操作する時代に、企業サイトが「情報を見せて人を動かす場」から、どのような基盤へ変わるべきかを検討する。マーケター・Web担当者が2030年頃までを見据えて備えるべき変化を、公開調査、技術動向、第三者の反論、実務上の判断基準から考える。

情報確認日:2026年08月05日

1. エグゼクティブサマリー

AIエージェントへの対応は、既存サイトを直ちに全面刷新することではない。現時点では利用実態と技術的な不確実性を見極めながら、主要な顧客意図、情報の一貫性、操作の安全性、成果計測を段階的に整えることが重要である。

第一に、AIエージェントの普及は始まっているが、企業での本格活用はまだ初期段階にある。 IPAの「DX動向2026」では、日本企業の58.0%がAIを導入または試験利用している。一方、生成AIを導入・試験・評価中の企業でも、広報・宣伝・マーケティング部門でAIエージェントを利用している割合は7.3%だった。マーケターにとっては、全面移行ではなく検証を始める時期と捉えるのが妥当である。

第二に、サイト設計の中心は、「どのページを見せるか」から「どの意図を安全に完了させるか」へ移る。 AIエージェントは、検索結果やページを閲覧するだけでなく、複数ページを横断して情報を比較し、フォーム入力や購入操作まで行う。したがって、ページ単位の導線だけでなく、「比較する」「予約する」「契約を変更する」といった利用目的単位の設計が必要になる。

第三に、人間向け画面を廃止して、AI専用サイトへ置き換えるべきではない。 今後求められるのは、人間にとって理解しやすい画面と、機械が意味や操作条件を解釈しやすいインターフェースを、同じデータと業務ルールから提供する設計である。特に頻度やリスクが高い操作では、画面操作だけに依存せず、安定したAPIや構造化された操作手段を用意する意義が大きい。ブラウザ操作とAPIを組み合わせたエージェントが、ブラウザだけを使う方式より高い成績を示した研究もある。

第四に、流入数だけでは、マーケティング成果を捉えにくくなる。 AIがサイトを巡回し、回答や比較結果だけを利用者へ返す場合、人間がページを訪れないまま意思決定が進む。Cloudflareの顧客ネットワークでは、AIによる「利用者の指示に基づくクロール」が2025年1月から12月初旬までに21倍超へ増えた。ページビューに加えて、エージェント経由の比較対象化、操作成功、有人対応への引き継ぎ、最終成果を測る必要がある。

第五に、最大の課題は、読み取りやすさではなく、安全に権限を渡せるかどうかである。 外部コンテンツに埋め込まれた指示によってエージェントの挙動を変えるプロンプトインジェクションは、完全に解決された問題ではない。高リスク操作では、権限の限定、実行前確認、取消し、記録を前提とした設計が不可欠になる。

2. 論点の背景

AIエージェントがもたらす構造変化は、Webの利用方法が「検索して自分で操作する」形から、「目的を伝えて処理を委任する」形へ広がることにある。変化の対象は検索流入だけではなく、サイトの情報構造、業務機能、権限管理、成果指標に及ぶ。

「検索するWeb」から「依頼するWeb」へ

従来のWeb利用では、利用者自身が検索し、複数のページを読み、比較し、入力し、最終的な操作を行っていた。検索エンジンやレコメンドは候補を提示しても、意思決定と操作の主体は原則として人間だった。

AIエージェントは、この前提を変える可能性がある。本稿ではAIエージェントを、利用者から目的を受け取り、Web上の情報を観察し、手順を計画し、複数の操作を実行し、結果を確認するシステムと定義する。

2024年から2025年にかけて、Anthropicは画面を見ながらマウスやキーボードを操作する「computer use」を発表し、Google DeepMindはProject Marinerを公開、OpenAIもブラウザ操作を含むエージェント機能を発表した。個別サービスの提供状況は変化し得るが、Webを「読むAI」から「操作するAI」へ拡張する方向性は複数社に共通している。

出典・調査条件:Claude 3.5 Sonnet upgrades and computer use
Anthropic、2024年10月。画面を認識し、マウスとキーボードを操作するAIの実装例として参照した。

出典・調査条件:Our vision for building a universal AI assistant
Google DeepMind、2025年5月。Project Marinerを含むWeb操作型AIの開発方向として参照した。

出典・調査条件:Introducing ChatGPT agent
OpenAI、2025年7月。ブラウザを利用し、複数段階の作業を行うAIエージェントの実装例として参照した。個別サービスの提供状況は変化し得る。

一般的に語られている認識

マーケティング分野では、AI検索や生成AIの回答に自社情報を掲載させるための施策が注目されている。従来のSEOに加え、情報を明確に構造化し、AIから引用・参照されやすくするという議論である。

この議論は重要だが、AIエージェントが操作まで担う場合、それだけでは不十分である。商品情報を正確に読めても、在庫確認、条件選択、本人確認、決済、取消しを安全に実行できなければ、利用目的は完了しない。

見落とされやすい論点

見落とされやすいのは、AIエージェントが新しい「訪問者」であると同時に、利用者から権限を預かった「代理者」でもあることだ。

通常のクローラーは情報を取得する。AIエージェントは、場合によっては情報を送信し、予約や購入を成立させ、顧客情報や契約状態を変更する。したがって、サイト側は、誰の依頼でアクセスしているのか、どの情報まで閲覧してよいのか、どの操作まで許可されているのかを判断しなければならない。さらに、実行前に人間へ確認すべき条件、誤操作が起きた場合の取消し範囲、操作結果を誰にどの形式で証明するかも設計対象になる。

robots.txtはクローラーに巡回方針を伝える仕組みだが、アクセス権限を認証する仕組みではない。情報収集の制御と、取引や変更操作の認可は分けて設計する必要がある。

出典・調査条件:RFC 9309: Robots Exclusion Protocol
Internet Engineering Task Force(IETF)、2022年9月。robots.txtの役割と、アクセス認証・認可との違いを確認するために参照した。

本稿で検証する問い

本稿の中心的な問いは、AIエージェントが利用者に代わってWebを操作するようになったとき、企業サイトは「情報を見せて人を動かす場」から、どのような基盤へ変わるべきか、というものである。

3. 公的調査から見える現在地

現在地を把握するには、企業における導入状況、Web操作技術の性能、AIによるアクセスの増加、既存のWeb標準を分けて見る必要がある。以下では、公的調査、国際標準、査読論文、民間事業者が公開した大規模ネットワークデータを組み合わせる。調査対象と評価条件が異なるため、数値を単純に比較することはできない。

論点主な数値・結果/本稿での示唆
日本企業のAI導入状況AIを「導入」42.3%、「試験利用」15.7%。合計58.0%。情報処理推進機構(IPA)の2026年調査で、日本企業を対象に2026年4月17日から6月12日まで実施し、AI利用状況の設問は1,794件。
AIは一部の先進企業だけのテーマではなくなっている。ただし、導入には限定的な利用も含まれ、企業全体での定着や成果を示す数字ではない。
部門別のAIエージェント利用AIエージェント利用率は、広報・宣伝・マーケティング7.3%、営業8.1%、ITシステム19.4%。生成AIを導入、試験利用または導入評価中と回答した企業が対象で、部門別の有効回答はおおむね1,146~1,152件。
マーケティング部門でのエージェント活用は、関心に比べてまだ初期段階にある。部門での利用有無を示すもので、利用頻度、対象業務、成果は分からない。
ブラウザ操作の成功率と環境変化WebArenaで71.2%、別環境へのゼロショット移行で47.4%の成功率。ACL 2026採択論文「ColorBrowserAgent」が、Web操作の研究用ベンチマークにおいて、知識の適応機構などを備えた特定方式を評価した。
高度なエージェントでも、環境が変わると成功率が低下する。サイト間の違いが操作安定性に影響する。ただし、研究用環境での結果であり、一般的なWeb全体の成功率ではない。二つの数字も同じ条件ではない。
ブラウザとAPIの併用ブラウザとAPIを組み合わせた方式は、ブラウザのみの方式より24ポイント超改善し、成功率38.9%。ACL 2025採択論文「Beyond Browsing」がWebArenaを使用した特定の実験設定で評価した。
画面操作だけでなく、機械が利用しやすい操作手段を併用することが成功率向上につながる可能性がある。ただし、ベンチマークと実装条件に依存し、APIを設ければ常に同じ改善が得られるわけではない。
AIによるWebアクセスの増加AIによる「利用者の指示に基づくクロール」は2025年1月から12月初旬までに21倍超。AIボットはHTMLリクエストの平均4.2%。Cloudflareの顧客ネットワークに対するHTMLリクエストが対象。
AI経由の情報取得が急速に増え、Webトラフィックの構成が変わり始めている。ただし、Cloudflare利用サイトに限られ、ユーザーエージェント等による分類であり、Web全体の割合ではない。調査主体には商業上の利害もある。
Webアクセシビリティの既存原則WCAG 2.2は、知覚可能・操作可能・理解可能・堅牢という4原則の下に13のガイドラインを置く。W3Cが2023年に公開した、Webコンテンツのアクセシビリティに関する国際的な勧告。
意味の明確さ、操作可能性、堅牢性は、人間に加えて機械がWebを解釈する際にも重要な土台になる。ただし、WCAGは人間のアクセシビリティを目的とし、適合してもAIエージェントの操作成功を保証しない。

出典・調査条件:DX動向2026 データ集
情報処理推進機構(IPA)、2026年7月。日本企業を対象に2026年4月17日から6月12日まで実施。AI利用状況の設問は1,794件。部門別AIエージェント利用の有効回答はおおむね1,146~1,152件。導入には限定的な利用も含まれ、利用頻度、対象業務、成果までは示さない。

出典・調査条件:ColorBrowserAgent: Complex Long-Horizon Browser Agent with Adaptive Knowledge Evolution
Wang et al./Association for Computational Linguistics、2026年7月。WebArenaにおける成功率71.2%と、別環境への移行時47.4%を参照した。研究用環境の特定方式による結果であり、一般的なWeb全体の成功率ではない。

出典・調査条件:Beyond Browsing: API-Based Web Agents
Song et al./Association for Computational Linguistics、2025年7月。WebArenaを使用した特定の実験設定における、ブラウザとAPIを組み合わせた方式の性能と、ブラウザのみの方式との差を参照した。APIの設置による効果を一般化できる結果ではない。

出典・調査条件:2025 Cloudflare Radar Year in Review
Cloudflare、2025年12月。AIによる利用者指示型クロールの増加と、HTMLリクエストに占めるAIボットの割合を参照した。Cloudflareの顧客ネットワークが対象であり、Web全体の割合ではない。分類方法と調査主体の商業上の利害にも注意が必要である。

出典・調査条件:Web Content Accessibility Guidelines(WCAG)2.2
World Wide Web Consortium(W3C)、2023年10月。4原則、13ガイドライン、堅牢で操作可能なWeb設計を参照した。人間のアクセシビリティを目的とする勧告であり、AIエージェントの操作成功を保証するものではない。

調査全体から分かること

事実として確認できることは、企業のAI利用が広がる一方で、AIエージェントの部門利用はまだ限定的であることだ。 また、研究上のエージェント性能は向上しているが、サイトや環境が変わると安定性が低下する。画面操作だけでなく、APIなどの機械向け操作手段を組み合わせることには、性能向上の余地がある。

さらに、AIによるWeb情報取得はすでに増加している。マーケターにとって、AI経由の接触は将来だけの問題ではない。ただし、現時点では「急速に増えていること」と「主要な顧客接点になったこと」を同一視すべきではない。

調査だけでは分からないこと

既存調査からは、AIエージェント経由の訪問が売上や契約へどの程度寄与しているかを十分に判断できない。また、利用者がどの種類の取引までAIへ任せたいと考えるか、AIエージェントに対応したサイト改修の費用対効果、エージェントに情報や操作手段を提供することがブランド想起や顧客関係に与える影響も明らかではない。

さらに、エージェント事業者、サイト運営者、コンテンツ制作者の間でどのような対価配分が定着するか、2030年時点で共通の識別、認証、操作プロトコルがどこまで標準化されているかも判断できない。これらについては、信頼できる横断的な公的統計がまだ十分ではなく、追加調査が必要である。

4. CREATREEの見解

以下は、CREATREEがWeb・AI領域を扱う企業であるという前提に基づく仮説的な見解である。 調査から直接確認できる事実ではなく、公開情報をもとに、顧客体験、事業実装、技術的実現性、運用体制の関係を解釈したものである。

4-1. CREATREEが注目する変化

CREATREEが注目するのは、サイトの利用者が人間からAIへ置き換わることではない。人間がAIへ作業を委任し、人間とAIが一つの利用行動を分担するようになることである。

たとえば、旅行の予約では、AIが候補を集め、価格や条件を比較し、人間が最終候補を確認する。その後、AIが入力を代行し、支払い直前で再び人間に承認を求める、といった分担が考えられる。

このとき、サイト設計の単位はページではなく、「利用者の意図」になる。条件に合う商品を探す、複数の商品を比較する、空き状況や在庫を確認する、見積もりを取得する、予約、購入、申請を行う、契約内容を確認または変更する、取引を取り消すといった目的が設計単位となり、ページはそれらを実現する表現手段の一つになる。

4-2. 一般的な議論との違い

一般的なAI検索対策では、「AIに正しく読まれる情報を増やすこと」が中心になる。CREATREEの仮説では、次の段階でより重要になるのは、「AIが安全に行動できる条件を設計すること」である。

検索時代の中心課題は、発見されることだった。エージェント時代の中心課題は、解釈できること、実行できること、統制できることへ広がる。第一に、商品、価格、条件、対象者、制約を明確にしなければならない。第二に、在庫確認、見積もり、予約、変更などを安定して行える必要がある。第三に、誰が何を依頼し、どこまで実行でき、結果をどう確認・取消しできるかを定める必要がある。したがって、構造化データを追加するだけでは十分ではない。

4-3. Web・AI・顧客体験・事業実装から見た本質

CREATREEの解釈では、AIエージェント時代のサイトは、人間の体験、意味と情報、操作と権限、計測と改善という四つの層として捉えると設計しやすい。それぞれを別々に作るのではなく、同じデータと業務ルールを基盤として連携させることが重要である。

1. 人間の体験層

人間の体験層は、ブランドの価値、商品の違い、安心感、感情的な魅力を人間へ伝える画面である。高額商品、医療、金融、住宅、教育など、判断に不安や責任を伴う領域では、視覚的な説明や人との対話が引き続き重要になる。

2. 意味と情報の層

意味と情報の層では、商品名、価格、対象条件、在庫、期限、規約、更新日時、情報の出所を、曖昧さの少ない形式で管理する。

重要なのは、AI向けに別の説明を作ることではない。人間に表示する内容と、機械へ提供する内容が、同じ情報源から生成されることである。両者が異なると、誤案内や表示上の不一致が生まれる。

3. 操作と権限の層

操作と権限の層では、検索、比較、見積もり、予約、購入、変更、取消しなどの操作を提供する。

頻度が高く、事業上重要な操作については、画面上のボタンをAIに押させるだけでなく、安定した操作手段を用意することが望ましい。操作には、権限範囲、入力条件、エラー形式、再実行時の扱い、取消し条件を含める。

4. 計測と改善の層

計測と改善の層では、従来のページビューやクリックに加え、「依頼された意図が完了したか」を計測する。

たとえば、比較依頼の受付数、在庫確認の成功率、入力エラー率、承認前の離脱率、有人対応への引き継ぎ率、取消し率などを把握する。これにより、AIエージェントを単なるボット流入ではなく、一つの顧客接点として改善できる。

4-4. 企業や組織が陥りやすい誤解

AIエージェント対応では、技術の追加そのものを目的にすると、情報品質、利用者の統制、事業成果を見失いやすい。特に、構造化データ、操作の摩擦、アクセス許可、ページビューについては、従来のWeb改善と同じ前提を置かないことが重要である。

誤解1:構造化データを追加すれば対応は完了する

構造化データは、情報を理解させるうえで有効である。しかし、価格や在庫が更新されていない、例外条件が本文にしかない、操作後の状態が確認できない、といった問題は解決しない。

誤解2:操作の摩擦は少ないほどよい

人間向けのコンバージョン改善では、入力や確認の削減が重視される。しかし、代理操作では、すべての摩擦が悪いわけではない。高額決済、契約変更、個人情報送信には、意図的な確認手順が必要である。

誤解3:AIエージェントを全面的に許可するか、全面的に拒否するかの二択である

実務では、情報の種類と操作のリスクに応じて段階を分けるべきである。一般商品情報は公開し、在庫確認は回数制限付きで許可する。購入には利用者認証を求め、契約変更には追加承認を求める、といった制御が考えられる。

誤解4:ページビューが減れば、マーケティング価値も減る

AIが候補選定や比較を代行すると、ページビューが減っても、購入候補として選ばれる回数が増える場合がある。反対に、アクセスが増えても、クロールだけで成果につながらない場合もある。今後は「見られた回数」と「意思決定へ寄与した回数」を分けて考える必要がある。

4-5. CREATREEが重要だと考える判断基準

AIエージェント対応を判断する際は、少なくとも五つの評価軸が必要になる。第一に、対応によって利用者の時間、手間、比較の負担が減るかという利用者価値である。第二に、商品、条件、制約、例外を機械が誤解しにくい形で表現できるかという意味の明確性である。

第三に、認証、権限、確認、取消し、監査記録を設計できるかという操作の安全性がある。第四に、情報更新、仕様変更、障害対応、問い合わせ対応を継続できるかという運用可能性がある。第五に、AI事業者やエージェントへ提供する価値と、自社が得る顧客接点、売上、データ、ブランド効果の釣り合いが取れるかという事業上の持続性がある。

4-6. 実務に落とし込む際の考え方

すべてのページを一度に作り直す必要はない。まず、利用者の主要な意図を洗い出し、「読む」「比較する」「行動する」という三段階に分類することが現実的である。

段階代表例/サイト設計の重点
読む商品情報、料金、条件、FAQの確認。
意味の明確さ、更新日時、出所、構造化を重視する。
比較する商品比較、見積もり、空き状況確認。
比較可能な項目、定義の統一、最新性を重視する。
行動する予約、購入、申請、契約変更。
認証、権限、確認、取消し、操作記録を重視する。

低リスクの「読む」領域から改善し、比較、低額の操作、高額・高リスクの操作へ段階的に広げる。これにより、需要が不確実な段階で過大な投資を避けながら、必要な設計能力を蓄積できる。

5. 第三者から見た評価

CREATREEの見解は、利便性や事業機会だけで評価することはできない。マーケター、顧客、開発者、セキュリティ・法務部門、コンテンツ提供者、AIエージェント事業者では、期待する効果と許容できるリスクが異なる。

立場期待、懸念、判断基準/CREATREEの見解との関係
マーケター・Web担当者比較候補への掲載、問い合わせや購入の増加、顧客負担の軽減を期待する。一方、ページ訪問が減り、広告、計測、ブランド接触が弱まる可能性を懸念する。判断基準は、エージェント経由の成果、顧客獲得費、指名検索、再利用率である。
成果指標の再設計ではCREATREEの見解と共通するが、ブランド接触の減少をどこまで許容するかは事業により異なる。
顧客・生活者検索、比較、入力にかかる時間の削減を期待する。一方、誤購入、条件の見落とし、個人情報の過剰共有、責任所在の不明確さを懸念する。判断基準は、正確性、取消し可能性、説明の分かりやすさ、選択権である。
利便性よりも、最終的な統制権を利用者に残す点でCREATREEの見解と共通する。
デザイナー・エンジニア操作や情報構造を整理し、再利用可能な設計にできることを期待する。一方、二つの接点を維持することで設計・開発・試験の負担が増えることを懸念する。判断基準は、共通データ利用率、保守工数、操作成功率、アクセシビリティである。
二層の見た目ではなく、共通基盤から複数の接点を提供する考え方でCREATREEの見解と共通する。
セキュリティ・法務部門権限と操作履歴を標準化できることを期待する。一方、なりすまし、不正操作、プロンプトインジェクション、同意の曖昧さを懸念する。判断基準は、最小権限、監査可能性、事故時の影響範囲、法令適合である。
CREATREEの見解より慎重な導入を求める可能性があるが、安全性を設計要件とする点は共通する。
コンテンツ提供者・メディアAI経由で情報の到達範囲が広がることを期待する。一方、サイト訪問や広告収益が減り、コンテンツ制作の対価を回収できないことを懸念する。判断基準は、参照元表示、送客、利用許諾、収益分配である。
機械可読性だけでなく、価値交換の設計が必要という点でCREATREEの見解と共通する。
AIエージェント事業者操作成功率を高め、利用可能なサービスを増やせることを期待する。一方、サイトごとに認証、API、条件が異なることによる開発負担を懸念する。判断基準は、接続容易性、仕様の安定性、エラー処理、対応サイト数である。
共通仕様への期待はCREATREEの見解と共通する。ただし、サイト運営者側は一律の開放ではなく、選択的な提供を求める。

成立し得る反論1:AIの画面認識が進歩すれば、専用の対応は不要になる

この反論には一定の妥当性がある。低リスクの閲覧や単純な入力では、既存画面を操作するだけで十分な場合も多い。エージェントの性能向上によって、サイト側の改修が不要になる領域もあるだろう。

一方、研究では、環境が変わると成功率が下がることや、APIを組み合わせた方式が画面操作だけの方式を上回る結果も示されている。高頻度または高リスクの操作では、画面認識の進歩だけに依存するより、明示的な操作手段、権限、結果確認を用意する方が、事業運営上の再現性を確保しやすい。

成立し得る反論2:AIに情報を渡しやすくすると、ブランドが比較表の一項目にされる

この懸念も現実的である。AIが複数商品を横並びで比較すれば、サイト上で構築してきた物語や視覚表現が伝わらず、価格や機能だけで評価される可能性がある。

したがって、すべての情報と機能を無条件に開放することが正解とは限らない。基本情報は比較可能にしつつ、専門的な相談、保証、導入支援、コミュニティ、購入後の体験など、ブランド固有の価値を人間に伝える接点を残す必要がある。

成立し得る反論3:現在の利用率を考えると、対応は時期尚早である

IPAの調査では、マーケティング部門におけるAIエージェント利用率はまだ7.3%である。大規模な全面改修を正当化できない企業は多い。

ただし、情報構造の整理、アクセシビリティ改善、操作ログの整備、権限設計は、人間向けサイトの品質向上にもつながる。AI専用の大型投資ではなく、既存改善の中に将来対応を組み込むことは合理的である。

出典・調査条件:DX動向2026
情報処理推進機構(IPA)、2026年7月。日本企業のAI導入・試験利用率、部門別AIエージェント利用率、調査対象と回答条件を確認するために参照した。部門での利用有無を示すもので、成果や利用頻度を示す数字ではない。

6. 想定されるインパクト

AIエージェントの影響は、短期にはアクセス観測と運用負荷、中期には業務プロセスと組織能力、長期には仲介構造や社会制度へ広がる可能性がある。以下では、公開情報から可能性が高い事項、一定の条件下で起こり得る事項、CREATREEによる仮説、現時点では判断困難な事項を分けて考える。

短期的インパクト:現在から1年程度

短期には、AIによるクロールや画面操作が増え、アクセス解析上の「利用者」の中に、人間、検索クローラー、学習・情報収集ボット、利用者の指示で動くエージェントが混在する。公開情報から可能性が高い変化であり、既存のアクセス解析だけでは目的や成果を区別しにくくなる。

何が変わるか

マーケター・Web担当者には、サーバーログ、ユーザーエージェント、認証情報、操作結果を組み合わせた観測が求められる。単にアクセス数を集計するだけでなく、情報取得、比較、入力、取引のどこまで進んだかを把握する必要がある。

誰が影響を受けるか

マーケター、アクセス解析担当者、Web運用担当者、カスタマーサポート、セキュリティ担当者が早期に影響を受ける。エージェントの誤操作による入力エラー、重複送信、在庫照会の増加などが起きれば、開発部門や現場業務にも負担が広がる可能性がある。

期待される効果

一定の条件下では、商品情報やFAQが整理された企業において、問い合わせ前の情報収集がAIによって効率化される。顧客は複数ページを読む負担を減らし、より具体的な相談から始められる可能性がある。

負担やリスク

公開情報から可能性が高いリスクとして、ボット判定の誤り、過剰なアクセス、古い情報の引用、プロンプトインジェクション、不正なフォーム送信がある。ブラウザエージェントに対するプロンプトインジェクションを完全に防ぐ方法は、現時点で確立されていない。

OpenAIも、エージェント設計では攻撃を完全に消すことだけでなく、攻撃が成立した場合の影響範囲を制限する考え方を示している。したがって、重要な操作では最小権限、確認、取消し、記録を組み合わせる必要がある。

出典・調査条件:Prompt injection defenses
Anthropic、2025年11月。ブラウザエージェントに対するプロンプトインジェクションの継続的リスクを参照した。完全な防止方法が確立したことを示す資料ではない。

出典・調査条件:Designing AI agents to resist prompt injection
OpenAI、2026年3月。プロンプトインジェクション対策と、攻撃時の影響範囲を制限する設計を参照した。個別の対策によってリスクが完全に解消されることを保証する資料ではない。

中期的インパクト:2~3年程度

中期には、比較、見積もり、予約、購入といった主要機能の一部が、企業サイトの画面だけでなく、AIエージェントを経由して利用される可能性がある。これは一定の条件下で起こり得る変化であり、業種、取引リスク、顧客の受容度によって進行速度は異なる。

事業モデルや業務プロセスの変化

企業はWebサイトを集客媒体としてだけでなく、「外部の代理者が利用できる業務窓口」として管理する必要が生じる。その場合、商品情報の更新、在庫、価格、規約、本人確認、決済の各システムを一貫させる重要性が増す。

必要な人材や組織能力の変化

CREATREEによる仮説では、マーケティング、UX、開発、セキュリティ、法務、カスタマーサポートを横断し、利用意図の開始から完了までを設計する役割が重要になる。Web担当者には、ページ制作や広告運用だけでなく、データ定義、API、認証、業務フロー、計測を理解する能力が求められる可能性がある。

顧客の期待値の変化

一定の条件下では、利用者は企業ごとに異なる画面操作を覚えるより、「条件を伝えれば比較や手続きを進めてもらえる」体験を期待するようになる。一方、重要な判断では、人間が根拠を確認し、途中で修正し、最終決定できることも期待される。自動化の量だけでなく、確認と介入のしやすさが顧客体験の評価軸になる。

競争環境の変化

CREATREEによる仮説では、比較しやすい情報、正確な在庫、明確な条件、安定した操作手段を提供する企業が、AIエージェントの候補に選ばれやすくなる可能性がある。ただし、エージェントの推薦基準が不透明であれば、従来の検索順位とは異なる新たな依存関係が生まれる。

長期的インパクト:4~10年程度

長期には、AIエージェントが利用者の入口となり、企業と顧客の間に新しい仲介構造が生まれる可能性がある。ただし、共通規格、責任分担、利用者の受容、規制の方向は確定しておらず、以下はシナリオとして捉える必要がある。

産業構造の変化

CREATREEによる仮説では、AIエージェントが利用者の入口となれば、企業サイトへの直接訪問は一部の業種で減少し、エージェントが需要を集約する可能性がある。

旅行、EC、金融、求人、不動産など、比較項目が比較的定型化しやすい市場では、AIエージェントが新しい仲介者になるシナリオが考えられる。企業は、検索プラットフォームに加えて、エージェント基盤との関係を管理する必要が生じる。

人間とテクノロジーの関係

一定の条件下では、人間は個々の操作から離れ、目的、条件、予算、許容範囲を定める役割へ移る。AIは候補探索と反復作業を担う。

ただし、本人が操作しなくなるほど、取引条件を理解しないまま承認する危険も高まる。サイトには、AIが行った判断や操作を、人間が理解できる形で要約する機能が必要になる。

社会制度や倫理への影響

エージェントが誤った契約や購入を行った場合の責任、本人同意の有効性、差別的な推薦、未成年者や判断能力に制約のある人の保護など、制度上の論点が残る。どの程度の操作を本人の行為とみなすかは、技術仕様だけでは決められず、現時点では判断困難である。

新たに生まれる格差や課題

CREATREEによる仮説では、機械が理解しやすい情報と操作手段を提供できる大企業と、対応資源を持たない中小企業の間で、AI経由の発見可能性に差が生まれる可能性がある。

また、AIの利用料金を負担できる人とできない人、AIに自分の条件を適切に伝えられる人とそうでない人の間で、情報探索や取引条件に差が生じる可能性もある。

不確実性

共通プロトコル、エージェントの本人性、課金方法、コンテンツ利用の対価、成果の帰属は、現時点では判断困難である。特定の企業や現在の技術方式を前提にサイト全体を最適化することには、移行コストや囲い込みのリスクがある。

7. 企業・組織への提言

企業が取るべき対応は、AI専用の大規模なサイトを新設することではない。既存の顧客体験と運用基盤を見直し、低リスクの情報取得から、高リスクの取引へ段階的に対応範囲を広げることが現実的である。

提言1:主要な顧客意図を10件に絞り、リスクを分類する

何をするかという点では、アクセス数の多いページではなく、「比較したい」「在庫を知りたい」「見積もりたい」「予約したい」など、顧客が達成したい目的を10件程度に整理する。各目的は、閲覧、比較、低リスク操作、高リスク操作に分類する。

これが必要なのは、AIエージェントがページ単位ではなく、目的の完了に向けて複数画面を横断するためである。最初の一歩として、検索キーワード、サイト内検索、問い合わせ履歴、離脱ページ、カスタマーサポート記録から主要な目的を書き出す。

必要な体制は、マーケティング、Web運用、カスタマーサポート、プロダクト担当者による小規模な横断チームである。社内の都合で目的を定義し、実際の顧客行動とずれるリスクがあるため、目的別の完了率、所要時間、離脱率、問い合わせ率、有人対応への引き継ぎ率で成果を判断する。

提言2:人間向け表示と機械向け情報を、同じデータから生成する

商品名、価格、条件、在庫、期限、対象者、更新日時、規約を共通データとして管理し、人間向け画面、構造化データ、APIなどへ展開する。

これが必要なのは、人間に見える内容とAIが取得する内容の不一致を防ぎ、更新漏れを減らすためである。最初の一歩として、主要商品またはサービスを一つ選び、画面、CMS、構造化データ、外部連携先で内容が一致しているか確認する。

必要な体制は、コンテンツ担当者、CMS運用担当者、デザイナー、エンジニア、商品責任者である。データ項目を増やしすぎて更新作業が複雑になることや、機械向け情報だけが更新され、表示内容との不一致が起きることがリスクになる。情報不一致件数、更新反映時間、必須項目の入力率、古い情報の残存率、エージェントによる読み取りエラー率で成果を判断する。

提言3:高リスク操作には、確認、取消し、記録を組み込む

決済、契約、個人情報送信、予約変更などについて、操作前の要約、本人確認、承認、取消し方法、操作履歴を設計する。

これが必要なのは、AIの誤解や外部からの不正な指示が、直接的な損失や権利変更につながるためである。最初の一歩として、現在のサイトで金銭、契約、個人情報、在庫に影響する操作を一覧化し、誤操作時の影響度を評価する。

必要な体制は、プロダクト責任者、セキュリティ、法務、エンジニア、カスタマーサポートである。確認手順を増やしすぎて利用者の利便性を損なうリスクがあるため、不正操作件数、誤操作率、取消し成功率、重複実行率、承認前離脱率、事故時の復旧時間で成果を判断する。

提言4:ページビューとは別に、エージェント経由の成果を計測する

人間、検索クローラー、情報収集ボット、利用者の代理エージェントを可能な範囲で区別し、依頼された目的と操作結果をサーバー側で記録する。

これが必要なのは、AIが比較や情報取得を代行すると、ページ訪問が発生しない、または少数のリクエストで意思決定が進むためである。最初の一歩として、サーバーログとアクセス解析を照合し、主要なボット、アクセス先、頻度、エラー率を月次で確認する。

必要な体制は、マーケティング分析担当者、Web運用、データ担当者、セキュリティ担当者である。エージェントの識別を誤ることや、新しい指標を増やしすぎて意思決定に使われないことがリスクになる。エージェント経由の意図受付数、操作成功率、エラー・再試行率、有人引き継ぎ率、成果発生数、エージェント支援売上で成果を判断する。

提言5:情報公開と操作権限を、一律ではなく段階的に管理する

公開情報、条件付き情報、認証後情報、実行可能な操作を分ける。クロール方針、アクセス回数、認証、権限、利用規約、コンテンツ利用条件を個別に設計する。

これが必要なのは、AI対応を「すべて許可」または「すべて拒否」の二択にすると、事業機会か安全性のどちらかを過度に損なうためである。最初の一歩として、サイト内の情報と機能を、公開可能性、顧客価値、競争上の重要性、操作リスクの四軸で棚卸しする。

必要な体制は、事業責任者、マーケティング、情報システム、セキュリティ、法務、コンテンツ責任者である。制限を強くしすぎて正当な利用者や検索サービスから発見されにくくなること、反対に開放しすぎて費用や情報価値を回収できなくなることがリスクになる。正常アクセス成功率、不正アクセス件数、クロール費用、送客数、参照元表示率、利用許諾違反件数で成果を判断する。

8. 結論

AIエージェント時代のサイト設計で最も重要な変化は、利用者が見るページを最適化することから、利用者が委任した意図を安全に完了させることへ、設計範囲が広がることである。

公的調査からは、日本企業のAI利用が拡大する一方、マーケティング部門でのAIエージェント利用はまだ初期段階にあることが確認できた。研究からは、ブラウザ操作の性能が向上している一方、環境が変わると成功率が低下し、APIなどの明示的な操作手段を組み合わせる余地があることが分かる。

CREATREEの解釈では、将来の企業サイトは、人間向け画面と機械向け接点のどちらか一方を選ぶのではなく、共通のデータと業務ルールを基盤として、両方へ適切な体験を提供するものになる。

ただし、エージェント経由の経済効果、共通標準、責任分担、コンテンツ利用の対価については、現時点では判断できない部分が大きい。したがって、全面的な作り直しではなく、主要な顧客意図の整理、情報の一貫性、操作の安全性、成果計測から段階的に始めるべきである。

マーケター・Web担当者が次に考えるべき問いは、自社サイトが人間にとって分かりやすいだけでなく、利用者の代理者に「何を、どこまで、どのような証拠付きで」任せられるか、という点に集約できる。

関連記事

よくある質問

AIエージェント時代のサイト設計について、本文で扱った論点を実務上の疑問に沿って整理する。

AIエージェント時代には、人間向けのWebサイトは不要になりますか?

不要にはならない。ブランドの価値や安心感を伝える画面と、機械が情報や操作条件を解釈しやすい接点を、同じデータと業務ルールから提供する設計が重要になる。

構造化データを追加すれば、AIエージェント対応は完了しますか?

完了しない。構造化データは情報理解を助けるが、価格や在庫の更新、例外条件、認証、権限、操作結果の確認、取消しまでを保証するものではない。

企業はAIエージェント対応を何から始めるべきですか?

主要な顧客意図を10件程度に絞り、閲覧、比較、低リスク操作、高リスク操作へ分類することから始める。低リスクの情報取得を整えたうえで、段階的に対応範囲を広げる。

AIエージェント経由の成果は、どのように計測すべきですか?

ページビューだけでなく、比較や在庫確認などの意図受付数、操作成功率、エラー率、有人対応への引き継ぎ率、成果発生数を計測する。見られた回数と意思決定への寄与を分ける必要がある。

著者プロフィール

この著者の記事一覧へ
藤村 隼人 著者 藤村 隼人 CREATREE合同会社 代表社員/NSJAPAN CDO

HAL名古屋卒業後、マーケティング会社を経てCREATREE合同会社を設立。代表社員として、生成AI導入、AI業務自動化、UI/UX設計を横断し、構想から実装・運用改善まで支援。NSJAPANではCDOを務める。